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民事法律扶助

当事務所では、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助をご利用になられます。民事法律扶助とは、経済的にお困りの方が法的トラブルにあったときに、無料で法律相談を行い、(「法律相談援助」)、弁護士・司法書士の費用の立替えを行う(「代理援助」「書類作成援助」)制度です。債務整理のご相談、特に自己破産の案件では多くご利用いただいております。ただし、資力基準等の要件がありますので、詳しくは弁護士にご相談ください。

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日照権侵害の受忍限度論

1 日影規制違反の有無

 日影規制は、建築物が周囲の敷地に日影を生じさせる場合、一定の時間以内に制限することによって、周囲の敷地の日照を直接的に確保しようとする規定で、住居系の用途地域のほか、近隣商業地域、準工業地域および用途地域の指定のない区域で、地方公共団体の条例で指定する日影規制対象区域にのみ適用されます(建基法第56条の21)なお、日影規制対象区域外にある建築物であっても、高さが10mを超え、かつ、日影規制の対象区域内に一定時間日影を生じさせる場合は、当該建築物は適用対象区域内にある建築物とみなされ、この規制の対象となります(建基法第56条の24)

 建築基準法は、行政法規として最低限の基準を定めたものなので、日影規制に違反している場合には受任限度を超えるという判断になります。他方、日影規制に違反しない場合は私法上、受忍限度の範囲内であるという判断になりやすいといえます。しかし、建築基準法は最低限度の基準を定めたものにすぎないので、その日照侵害が日影規制に違反しないから受忍限度の範囲内であるとは言いきれません。この点に関しては、多くの裁判例で確認されています。

  (い) (ろ) (は) (に)
  地域又は区域 制限を受ける建築物 平均地盤面からの高さ   敷地境界線からの水平距離が10m以内の範囲における日影時間 敷地境界線からの水平距離が10mを超える範囲における日影時間
第1種低層住居専用地域又は第2種低層住居専用地域 軒の高さが7mを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物 1.5m (1) 3時間(道の区域内にあつては、2時間) 2時間(道の区域内にあつては、1.5時間)
(2) 4時間(道の区域内にあつては、3時間) 2.5時間(道の区域内にあつては、2時間)
(3) 5時間(道の区域内にあつては、4時間) 3時間(道の区域内にあつては、2.5時間)
第1種中高層住居専用地域又は第2種中高層住居専用地域 高さが10mを超える建築物 4m (1) 3時間(道の区域内にあつては、2時間) 2時間(道の区域内にあつては、1.5時間)
(2) 4時間(道の区域内にあつては、3時間) 2.5時間(道の区域内にあつては、2時間)
(3) 5時間(道の区域内にあつては、4時間) 3時間(道の区域内にあつては、2.5時間)
第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域又は準工業地域 高さが10mを超える建築物 4m (1) 4時間(道の区域内にあつては、3時間) 2.5時間(道の区域内にあつては、2時間)
(2) 5時間(道の区域内にあつては、4時間) 3時間(道の区域内にあつては、2.5時間)
用途地域の指定のない区域内の建築物 高さが10mを超える建築物 4m (1) 4時間(道の区域内にあつては、3時間) 2.5時間(道の区域内にあつては、2時間)
(2) 5時間(道の区域内にあつては、4時間) 3時間(道の区域内にあつては、2.5時間)
 この表において、平均地盤面からの高さとは、当該建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面からの高さをいうものとする。
日影図 建築物の日影を時間ごとに描いたもの(目黒区HPより抜粋)
日影図 建築物の日影を時間ごとに描いたもの(目黒区HPより抜粋)

建築基準法等による公法的規制における利益衡量は一般的・概括的であり、そこで定められた基準は最低の基準であって、私法上の受忍限度とは必ずしも一致するものではない。公法的規制に適合していることは受任限度の判断に当たって尊重されなけれならない一つの要素ではあるが、それをもって直ちに、あるいは原則的に受忍限度を超える被害を生じさせることを否定するのは相当とは言い難い(東京高裁平成3年9月25日)。

2 日影規制対象区域内の日影規制対象外建物

 日影規制にかかる区域内にある建物であっても、その高さにより日影規制が及ばないことがあります。この場合、日照権侵害が受忍限度内であるという判断になりやすいといえますが、この場合でも、直ちに受忍限度の範囲内であるということにはならず、その他の事情を考慮して判断されます。

建築基準法が規定する日影規制に抵触しない場合は、当該建物は、特段の事情がないかぎり、私法上も違法性がない、又は受忍限度を超えないと解するのが相当であるところ、本件建物は、第2種住居専用地域との指定がなされているところであり、高さが10メートルに満たない建築物であることから、特段の事情がない限り、本件建物により債権者建物に日照権侵害が生じたとしても受忍限度内と考えられる(名古屋地裁平成6年12月7日)。

※この事例では、特段の事情が認められている。 

3 日影規制対象区域外の建物

 日影規制区域外にある建物の場合、日照権侵害が受忍限度内であるという判断になりやすいといえますが、この場合でも、直ちに受忍限度の範囲内であるということにはならず、その他の事情を考慮して判断されます。

建築基準法その他の公法的規制は、一般的・概括的に種々の利益衡量を行っているものであり、将来建物建築を予定する者の法的安定性や予測可能性の観点からも、公法的規制への適合性は、私法上の受忍限度の判断に当たり、十分尊重されなければならない。

しかし、建築基準法における利益衡量は一般的・概括的なものであるし、そこに定められている基準は「最低基準」であるから、公法的規制への適合性如何は、私法上の受忍限度とは必ずしも一致するものではない。したがって、当該建物が同法における日影規制対象外の区域に建てられるものであることから、直ちに当該建物による日影が私法上の受忍限度を超えるものではないとみるのは相当ではない。すなわち、当該建物が日影規制対象外の区域に建てられることは、重要であるが、利益衡量の一つにの要素にすぎないというべきであり、問題となる具体的・個別的な事情を総合的に比較衡量して、受忍限度を超えるものであるか否かを判断するべきである。(神戸地裁平成11年10月26日)。

4 地域制(用途地域)

 日照権侵害が受忍限度を超えているかどうかの判断においては、当該建物の損する地域性が重要な判断要素となります。都市計画法が定める用途地域により、日照権保護の必要性も変わってきます。その他、容積率の限度、建ぺい率の限度、都市計画法に定める高度地区指定の有無等も地域性の判断において重要な要素となります。

住居系用途地域

 

第一種低層住居専用地域

低層住宅のための地域

第二種低層住居専用地域

主に低層住宅のための地域

第一種中高層住居専用地域

中高層住宅のための地域

第二種中高層住居専用地域

主に中高層住宅のための地域

第一種住居地域

住居の環境を守るための地域

第二種住居地域

主に住居の環境を守るための地域

準住居地域

道路の沿道において、自動車関連施設などの立地と、これと調和した住居の環境を保護するための地域

商業系用途地域

近隣商業地域

周りの住民が日用品の買物などをするための地域

商業地域

銀行、映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域

工業系用途地域

準工業地域

主に軽工業の工場やサービス施設などが立地する地域

工業地域

どんな工場でも建てられる地域

工業専用地域

工場のための地域

最後に,周辺地域の地域性と先住関係について検討する。

証拠によれば,原告土地,被告土地の周辺地域は,建築基準法上,商業地域ではなく,第1種低層住居専用地域又は第1種住居地域であること,以前から平家建又は2階建の住宅がほとんどの地域であって,原告建物の南側,東側も,本件マンションが建設されるまでは1,2階建の建物又は駐車場で,3階建以上の建築物は存在しなかったこと,従って,原告は,本件マンションの建設で住環境が一変したことにより,大きな衝撃を受けたことが認められる(神戸地裁平成15710日)。

5 地域制:土地利用の現状

 地域における日照確保の必要性を検討するに当たっては、その地域の実態、現在の土地の利用状況や将来の地域の発展動向等も考慮されます。

証拠によれば,原告土地,被告土地の周辺地域は,建築基準法上,商業地域ではなく,第1種低層住居専用地域又は第1種住居地域であること,以前から平家建又は2階建の住宅がほとんどの地域であって,原告建物の南側,東側も,本件マンションが建設されるまでは1,2階建の建物又は駐車場で,3階建以上の建築物は存在しなかったこと,従って,原告は,本件マンションの建設で住環境が一変したことにより,大きな衝撃を受けたことが認められる。

しかしながら,証拠によれば,既に,昭和32年に本件マンションの東に隣接する道路の拡幅が都市計画決定され,かつ,昭和45年2月に付近一帯が現在と異ならない用途地域に指定されたため,このころから既に,建築基準法上は,本件マンションに匹敵する高さ,大きさの建物の建築が可能であったことが認められる。また,今のところ,周辺地域に,本件マンションに匹敵する大きさの建物はまだ存在しないものの,証拠によれば,3階建,4階建の建物は既に周辺に点在していることが認められ,これらの事実に照らすと,今後,本件マンションと同程度の大きさの建物がこの地域に建設され,付近一帯の建物が徐々に高層化する可能性もあると認められる(神戸地裁平成15年7月10日)。


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