職場のいじめとは
「職場のいじめ」と一言でいっても,その態様は様々で,何が「いじめ」にあたるかは難しい問題です。東京都では,「職場のいじめ」を以下のように定義しています。
職場(職務を遂行する場所全て)において、仕事や人間関係で弱い立場に立たされている成員に対して、精神的又は身体的な苦痛を与えることにより、結果として労働者の働く権利を侵害したり、職場環境を悪化させたりする行為 |
パワーハラスメントといじめ
近年、「パワーハラスメント」が急速に注目を集めています。しかし、法律又は判例上でパワーハラスメントが明確に定義づけられているわけでありません。裁判では,それがパワハラであるかどうかを問題とするのでなく,どのような加害行為があり,その結果がどのようなものであったかという実態を問題にするからです。
なお,しかし国の外郭団体である財団法人21世紀職業財団による「パワーハラスメント」の定義は次のようになっています。
職場において、地位や人間関係で弱い立場の労働者に対して、繰り返し精神的又は身体的な苦痛を与えることにより、結果として労働者の働く権利を侵害し、職場環境を悪化させる行為 |
増える職場のいじめ問題とその背景
近時,雇用態様が多様化し,さらに長引く経済不況を背景に,労働相談自体が増加しています。その中でも,職場のいじめに関する相談は非常に増えています。
その原因は様々ですが、一つには、働き方が変化して職場の人間関係が希薄化してきたことが挙げられます。その背景には、作業のIT化,成果主義によって労働者同士の競争が激しくなってきたこと,様々な雇用形態・労働条件の労働者が一緒に仕事をするようになってきたことなどがあります。
また,職場のいじめやパワハラ等についての法整備がなされ,労働者の人格権が裁判上も確立してきたといことも背景にあると思われます。
職場のいじめの類型
裁判上問題となった職場のいじめを大きく分類すると①使用者の意思による「退職強要型」のいじめ、②上司・同僚とのトラブルによる「人間関係型」のいじめの2つの類型に分けられます。
退職強要型 |
人間関係型 |
・退職届の提出を強要する ・仕事を取り上げる ・過大なノルマを課す ・遠隔地への配置転換 |
・人格を否定する発言、叱責 ・からかい ・無視、無交渉 |
事 案(神戸地裁平成29年8月9日):仕事を与えなかった例 |
H教育大の元男性職員(51)が、長期間十分な仕事を与えられず精神的苦痛を受けたとして、運営する国立大学法人に550万円の損害賠償を求めた訴訟。男性は平成9年、上司らへの暴言、暴行を理由に減給の懲戒処分となり、さらに病気で休職した。上司らに暴言を繰り返すなどしていた男性を解雇せず、トラブル回避を目的で復帰後の10年から約13年間、備品のシール貼りやグラウンドの見回りなどの簡単な仕事だけをさせ続けさせ、仕事を与えない状態を継続した。 |
判 決 |
大学のパワハラ行為を認め50万円の支払いを命じた。 |
出 典 |
産経ニュース2017.8.10 08:53 |
パワハラの存在を証拠化することが重要
(1)証拠化
まず,いじめやパワハラ等の行為があったことを証拠として残しておく必要があります。出来ればテープに録音したり,ビデオや写真といった媒体に残しておきます。それができない場合でも,その場で起きた詳細をメモしておきます。
(2)公表と申し入れ
いじめやパワハラ行為に対する責任を追及する際,加害者から「いじめ行為をしていた認識はない」「嫌がっているとは思わなかった」という言い逃れがよくなされます。将来の加害行為を抑止し,こういった言い逃れをさせないためにも,いじめ・パワハラ等の行為を止めるよう,申し入れをする必要があります。なお,内容証明郵便を用いれば,申し入れをした事実を証拠化することができます。
第三者機関(裁判外紛争解決機関)を利用する
本人同士の交渉等で問題が解決できない場合には,第三者機関を利用することもできます。各都道府県労働局や労働基準監督署の総合労働コーナーや弁護士会の斡旋,仲裁などが代表的なものです。
労働審判
平成18年4月1日から始まった労働審判手続は,解雇や給料の不払など,事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを,そのトラブルの実情に即し,迅速,適正かつ実効的に解決することを目的としています。
労働審判手続は,労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が,個別労働紛争を,原則として3回以内の期日で審理し,適宜調停を試み,調停による解決に至らない場合には,事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い,労働審判事件は訴訟に移行します。
訴訟
職場におけるいじめやパワハラ行為が精神疾患や自殺等を将来し,加害行為と結果との因果関係をめぐって争いとなっている場合や,加害者が加害行為自体を否認していて話し合いでの解決ができない場合には,訴訟を提起することになります。