事 案 |
債務者に雇用されていた債権者が、CS品質保証部ソフト検査課からパソナルームに移動させられた後解雇された事案。債権者は、パソナルームヘの異動及び解雇が無効であるとして、債務者のCS品質保証部ソフト検査課所属の従業員としての地位保全及び賃金の仮払いを求めている。 |
争 点 |
能力不足を理由とする解雇の有効性 |
判 旨 |
債権者が、債務者の従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない・・・ 就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、二号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、二号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。 債権者について、検討するに、確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達しているとはいえないし、債務者の従業員の中で下位一〇パーセント未満の考課順位ではある。しかし、すでに述べたように右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。債務者は、債権者に退職を勧告したのと同時期に、やはり考課順位の低かった者の中から債権者を除き五五名に対し退職勧告をし、五五名はこれに応じている(前記一4(三))。このように相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を毎年繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、相対的に一〇パーセント未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのである。したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となる。しかし、就業規則一九条一項二号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできないからである。 また、学卒者の研修における業務遂行が的確ではなかったために人材開発部人材教育課から異動させられたり、企画制作部制作一課においては、海外の外注管理を担当するだけの英語力がなかったり、国内の外注先から苦情を受けるなど対応が適切でなかった事実はあるものの、企画制作部制作一課に所属当時、エルダー社員に指名されたこともあり(前記一2(三)、なお、債務者は、他の従業員が多忙であり、債務者には、大した担当業務もなかったことから指名されたにすぎず、債権者の能力とは関係ない旨の主張をするが、新入社員の指導は、債務者にとっても重要な事項であることは容易に推測できるところ、労働能力が著しく劣り、向上の見込みもないような従業員にこうした業務を担当させることは、通常考えられず、債務者の主張は採用できない。)、平成四年七月一日に開発業務部国内業務課に配属されて以降、債権者は、一貫してアルバイト従業員の雇用管理に従事してきており、ホームページを作成するなどアルバイトの包括的な指導、教育等に取り組む姿勢も一応見せている。 これらのことからすると、債務者としては、債権者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このよう教育、指導が行われた形跡はない。)、いまだ「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。 なお、債務者は、雇用関係を維持すべく努力したが、債権者を受け入れる部署がなかった旨の主張もするが、債権者が面接を受けた部署への異動が実現しなかった主たる理由は債権者に意欲が感じられない(前記一4(一))といった抽象的なものであることからすれば、債務者が雇用関係を維持するための努力をしたものと評価するのは困難である。 したがって、本件解雇は、権利の濫用に該当し、無効である。 |
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