事 案 |
裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令により精神的損害を受けたとして、Y 1会社およびY 2に損害賠償を求めて訴えを提起 |
争 点 |
就業規則の書写しを教育訓練として行わせる業務命令の有効性 |
判 旨 |
就業規則128条に基づき、職場内教育訓練を含めてY 1会社が社員に命じ得る教育訓練の時期及び内容、方法は、その性質上、原則としてY1会社……の裁量的判断に委ねられているものというべきであるが、その裁量は無制約なものではなく、その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもない。かかる不合理ないし不当な教育訓練は、Y 1会社……の裁量の範囲を逸脱又は濫用し、社員の人格権を侵害するものとして、不法行為における違法の評価を受けるものというべきであるが、右裁量の逸脱、濫用の有無は、当該教育訓練に至った経緯、目的、その態様等諸般の事情を考慮して判断すべきものと解するのが相当である。本件ベルト着用の就業規則違反の程度は軽微であること、就業規則の全文書写しは、肉体的、精神的苦痛を与えるものであり、合理的教育的意義を認め難く、必要性も見出し難いこと、Y 2の態度はXの人格をいたずらに傷つけ、また、その健康状態への配慮も怠ったこと、勤務時間中に事務室内で長時間にわたり行われたことなどから、Y 2の命じた教育訓練は、懲罰的目的からなされたものと推認せざるを得ず、その目的においても具体的態様においても不当なものであって、Xに故なく肉体的、精神的苦痛を与えてその人格権を侵害するものであるから、教育訓練についてのY 2の裁量を逸脱、濫用した違法なものであり、不法行為を構成することは明らかである。以上より、Y 2は民法709条に基づき、Y 1会社は民法715条に基づき、損害賠償義務を負う。 |
備 考 |
Yらは、本判決に対して上告したが、本判決はそのまま維持されている(最判平成8年2月23日)。 |
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