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普通解雇に関する違法性を否定した事例 最判平成平成22年5月25日

事 案

上告人の従業員であった被上告人が,上告人による普通解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上是認し得ないもので違法であるとして,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案

具体的事実関係

(1)ア被上告人は,平成12年8月16日,建設機械器具の賃貸等を業とする会社である上告人に雇用された。被上告人は,同日から同17年3月まで営業部次長を,同年4月からは営業部長を務め,同19年5月1日には統括事業部長を兼務する取締役に就任した。

イ上告人の就業規則35条1項2号(以下「本件規定」という。)は,普通解雇事由として「技能,能率又は勤務状態が著しく不良で,就業に適さないとき」を掲げている。

(2) 被上告人は,酒に酔った状態で出勤したり,勤務時間中に居眠りをしたり,社外での打合せ等と称し嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり,取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。このため,被上告人の勤務態度や飲酒癖について,従業員や取引先から上告人に対し苦情が寄せられていた。上告人の代表取締役社長(以下「社長」という。)は,被上告人に対し,飲酒を控えるよう注意し,居眠りをしていたときには社長室で寝るよう言ったことはあるが,それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなく,被上告人も飲酒を控えることはなかった。

(3)ア被上告人は,平成19年6月4日(月曜日),取引先の担当者と打合せをする予定があるのに出勤せず,常務から電話で出勤するよう指示されたのに対し,日曜日だと思っていたと弁解した。被上告人は,その後連絡を取った部下の従業員からも出勤するよう求められたが,これにも応じず,結局,全日にわたり欠勤した(以下,この欠勤を「本件欠勤」という。)。社長は,被上告人に代わって上記取引先の担当者と打合せをしたが,この打合せの後,同取引先の紹介元であり,上告人の大口取引先でもある会社の代表者から,被上告人を解雇するよう求められた。

イ被上告人は,同日の夜,社長と電話で話をした際,酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。この言葉を聞いた社長は,苦情を寄せている従業員や取引先から被上告人をかばいきれないと考えた。

(4) 社長は,被上告人の上記発言を退職の申出ととらえ,翌日の取締役会で被上告人の退職の承認を提案したところ,被上告人を弁護したり慰留すべきであるとしたりする取締役がいなかったため,退職が承認された。

上告人は,被上告人が自主的に退職願を提出しなかったことから,同月15日付けで被上告人を解雇した(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。その後上告人が被上告人に送付した書面によれば,本件解雇は本件規定に定める解雇事由に基づくものとされている。

判 旨

被上告人は,入社直後から営業部の次長ないし部長という幹部従業員であり,平成19年5月以降は統括事業部長を兼務する取締役という地位にあったにもかかわらず,その勤務態度は,従業員からだけでなく,取引先からも苦情が寄せられるほどであり,これは被上告人の飲酒癖に起因するものであったと認められるところ,被上告人は,社長から注意されても飲酒を控えることがなかったというのである。上記事実関係の下では,本件解雇の時点において,幹部従業員である被上告人にみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は,上告人の正常な職場機能,秩序を乱す程度のものであり,被上告人が自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから,被上告人に本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。そうすると,上告人が被上告人に対し,本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり,懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても,本件解雇が著しく相当性を欠き,被上告人に対する不法行為を構成するものということはできない。

備 考(原審の判断)

社長は,本件欠勤まで,被上告人に対し,勤務態度や飲酒癖を改めるようはっきりと注意や指導をしておらず,かえって被上告人を昇進させたために,被上告人に自分の問題点を自覚させることができなかった。また,上告人は,本件欠勤の後も,取締役の解任,統括事業部長職の解職,懲戒処分など,解雇以外の方法を講じて被上告人が自らの勤務態度の改善を図る機会を与えていない。

このような事情からすると,上記の他の手段を講じることなくされた本件解雇は,社会通念上相当として是認することができず,被上告人に対する不法行為になる。

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