事 案 |
本件は,Y1が開設するA病院において,同病院に勤務していたY2の執刀により,下肢の骨接合術等の手術を受けたXが,上記手術による合併症として下肢深部静脈血栓症を発症し,その後遺症が残ったことにつき,Yらに対し,(1)Y2は,必要な検査を行い,又は血管疾患を扱う専門医に紹介する義務があるのに,これを怠り,その結果,Xに上記後遺症が残った,仮に,上記義務違反と上記後遺症の残存との間の因果関係が証明されないとしても,上記後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害された,(2) 仮に,上記因果関係及び上記可能性が証明されないとしても,Y2は,その当時の医療水準にかなった適切かつ真しな医療行為を行わなかったので,Xは,そのような医療行為を受ける期待権を侵害されたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。 |
争 点 |
適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする整形外科医の不法行為責任の有無 |
結 論 |
Yらについて上記不法行為責任の有無を検討する余地はなく,Yらは,Xに対し,不法行為責任を負わないというべきである。 |
理 由 |
患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべき |
具体的事案検討 |
Xは,本件手術後の入院時及び同手術時に装着されたボルトの抜釘のための再入院までの間の通院時に,Y2に左足の腫れを訴えることがあったとはいうものの,上記ボルトの抜釘後は,本件手術後約9年を経過した平成9年10月22日にY病院に赴き,Y2の診察を受けるまで,左足の腫れを訴えることはなく,その後も,平成12年2月以後及び平成13年1月4日にY病院で診察を受けた際,Y2に,左足の腫れや皮膚のあざ様の変色を訴えたにとどまっている。これに対し,Y2は,上記の各診察時において,レントゲン検査等を行い,皮膚科での受診を勧めるなどしており,上記各診察の当時,下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されていたわけでもない。そうすると,Y2が,Xの左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らず,専門医に紹介するなどしなかったとしても,Y2の上記医療行為が著しく不適切なものであったということができないことは明らかである。 |