事 案 |
請負人であるXが,注文者であるYに対し,建築基準法等の法令の規定に適合しない建物(以下「違法建物」という。)の建築を目的とする請負契約に基づく本工事及び上記規定に適合しない部分の是正工事を含む追加変更工事の残代金の支払を求めるもの |
争 点 |
本工事及び追加変更工事に係る請負契約が公序良俗に反するか否か |
結 論 |
1 建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする請負契約が公序良俗に反し無効 2 建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする公序良俗違反の請負契約に基づく本工事の施工が開始された後に施工された追加変更工事の施工の合意は公序良俗に反しない |
理 由 |
1 本件各契約は,違法建物となる本件各建物を建築する目的の下,建築基準法所定の確認及び検査を潜脱するため,確認図面のほかに実施図面を用意し,確認図面を用いて建築確認申請をして確認済証の交付を受け,一旦は建築基準法等の法令の規定に適合した建物を建築して検査済証の交付も受けた後に,実施図面に基づき違法建物の建築工事を施工することを計画して締結されたものであるところ,上記の計画は,確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという,大胆で,極めて悪質なものといわざるを得ない。加えて,本件各建物は,当初の計画どおり実施図面に従って建築されれば,北側斜線制限,日影規制,容積率・建ぺい率制限に違反するといった違法のみならず,耐火構造に関する規制違反や避難通路の幅員制限違反など,居住者や近隣住民の生命,身体等の安全に関わる違法を有する危険な建物となるものであって,これらの違法の中には,一たび本件各建物が完成してしまえば,事後的にこれを是正することが相当困難なものも含まれていることがうかがわれることからすると,その違法の程度は決して軽微なものとはいえない。Xは,本件各契約の締結に当たって,積極的に違法建物の建築を提案したものではないが,建築工事請負等を業とする者でありながら,上記の大胆で極めて悪質な計画を全て了承し,本件各契約の締結に及んだのであり,Xが違法建物の建築という被上告人からの依頼を拒絶することが困難であったというような事情もうかがわれないから,本件各建物の建築に当たってXが被上告人に比して明らかに従属的な立場にあったとはいい難い。以上の事情に照らすと,本件各建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず,これを目的とする本件各契約は,公序良俗に反し,無効であるというべきである。 |
2 本件追加変更工事は,本件本工事の施工が開始された後,C区役所の是正指示や近隣住民からの苦情など様々な事情を受けて別途合意の上施工されたものとみられるのであり,その中には本件本工事の施工によって既に生じていた違法建築部分を是正する工事も含まれていたというのであるから,基本的には本件本工事の一環とみることはできない。そうすると,本件追加変更工事は,その中に本件本工事で計画されていた違法建築部分につきその違法を是正することなくこれを一部変更する部分があるのであれば,その部分は別の評価を受けることになるが,そうでなければ,これを反社会性の強い行為という理由はないから,その施工の合意が公序良俗に反するものということはできないというべきである。 |