事 案 |
Xが,貸金業者であるA株式会社及び同社を吸収合併したYとの間の継続的な金銭消費貸借取引について,各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,Yに対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金852万2896円の返還等を求める事案。 |
争 点 |
Xは,Aとの間で,いわゆるリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,この基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を行った後,不動産に根抵当権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約を締結し,これに基づく借入金の一部により上記継続的な金銭消費貸借取引に係る約定利率による計算を前提とする元本及び利息の残債務(以下「約定残債務」という。)を弁済したところ,上記継続的な金銭消費貸借取引により発生した過払金を上記借入金債務に充当することができるかどうか。 |
判決要旨 |
同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約に基づく取引が続けられた後,改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結された場合において,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がないことなどの事情があっても,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の事情がない限り,第1の契約に基づく取引により発生した過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することはできない。 |
理 由 |
ア 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されず(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁,最高裁平成18年(受)第2268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁参照),第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときにおいては,上記の充当に関する合意が存在すると解するのが相当である(上記第二小法廷判決)。 イ 以上のことは,同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引が続けられた後,改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結された場合であっても,異なるものではない。 一般的には,無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第1の契約」という。)は,融資限度額の範囲内で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることが予定されているのに対し,不動産に担保権を設定した上で締結される確定金額に係る金銭消費貸借契約(以下「第2の契約」という。)は,当該確定金額を貸し付け,これに対応して約定の返済日に約定の金額を分割弁済するものであるなど,第1の契約と第2の契約とは,弁済の在り方を含む契約形態や契約条件において大きく異なっている。したがって,上記イの場合において,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がないことなどの事情が認められるときであっても,第1の契約に基づく取引が解消され第2の契約が締結されるに至る経緯,その後の取引の実情等の事情に照らし,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の事情がない限り,第1の契約に基づく取引と第2の契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価して,第1の契約に基づく取引により発生した過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することは相当でない。 |
具体的検討事項 |
XとAとの間では本件第1契約が締結され,これに基づく取引が続けられた後,改めて本件第2契約が締結されたところ,本件第1契約は無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約であるのに対し,本件第2契約は不動産に根抵当権を設定した上で1回に確定金額を貸し付け毎月元利金の均等額を分割弁済するという約定の金銭消費貸借契約であるから,両契約は契約形態や契約条件において大きく異なり,本件第2契約の締結時後は,本件第2契約に基づく借入金債務の弁済のみが続けられている。そうすると,本件第2契約がAの担当者に勧められて締結されたものであり,これに基づく借入金の一部が本件第1契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,Xにはその残額のみが現実に交付されたこと,本件第1契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,本件第2契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がなかったことなどという程度の事情しか認められず,それ以上に当事者が本件第1契約及び本件第2契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしているとみるべき事情のうかがわれない本件においては,本件第1契約に基づく取引と本件第2契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することは困難である。 |
結 論 |
本件第1契約に基づく取引により発生した過払金を本件第2契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解するのは相当でなく,上記過払金は上記借入金債務には充当されないというべきである。そうすると,上記過払金の返還請求権の消滅時効は成立していることとなる。 |
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