賃貸借契約が続くうちに、賃料の額が事情の変更により不相当となった場合、賃料の増額・減額について当事者間で協議によって決めるのが原則です。しかし、当事者間で協議が調わない場合には、裁判所に適正な賃料の額を定めてもらうことができます。どのような場合に増額・減額が認められるかについては、借地借家法に定められております。
借地借家法は、現行の賃料が「不相当」となった時に、賃料の増減額請求ができると定めています。どのような場合に「不相当」と判断されるかにつき、法は、①土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減、②土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下、その他の経済的事情の変動、③近傍同種の建物の借賃の比較、を挙げています。
① 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減 ② 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下、その他の経済的事情の変動 ③ 近傍同種の建物の借賃の比較 |
もっとも、上記3つに当てはまらない場合であっても、正当な理由(事情の変化)があれば、請求が認められる可能性はあります。
土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減土地または建物に対する租税その他の負担の増減とは、不動産の維持や管理に必要となる必要諸経費が増加・減額することをいいます。必要諸経費としては、固定資産税・都市計画税等の公租公課、損害保険料、維持修繕費などが挙げられます。
これら必要諸経費が、賃料の合意をした直近合意時点に比して増額したことで、貸主の負担が大きくなり、現行賃料を維持することが不公平となれば、賃料増額が認められます。
「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下」とは、対象不動産の時価額が増減した場合です。
「その他の経済事情の変動」とは、土地建物の価格の高騰以外の経済情勢の変動を指します。ここでは、物価指数や国民所得等の指標を参考に経済情勢の変動が判断されます。
「近傍同種の建物の借賃と比較」とは、近隣地域や類似地域における類似の物件の賃貸事例の賃料を比較する場合をいいます。この比較において、比較対象となる賃貸事例は、どんな事例でも構わないという訳ではなく、賃貸の形式、面積、契約期間、一時金の授受などの契約内容が類似していることが必要となります。
賃貸人と賃借人が、賃料の金額を決める要素とした事情その他諸般の事情も賃料増額の事情変更となります。
例えば、親族関係などの特殊な関係により賃料が低めに設定していたが、借主の変更によってそのような特殊な関係がなくなったような事情も考慮されます。
(1)相当賃料額の算出には、不動産鑑定士による鑑定(当事者による私的鑑定)がなされることが多いとされます。もっとも、裁判所は当事者から提出された鑑定評価書に依拠して判断することは少なく、多くの場合、裁判所が鑑定人を選任して鑑定が実施されます。
ただし、不動産鑑定士が行う評価は、経済的な判断であり、裁判所の行う相当賃料の判断とは異なることに注意が必要です。
(2)新規賃料と継続賃料
鑑定評価においては、「新規賃料」、「継続賃料」という言葉が用いられます。新規賃料とは、新たに不動産の賃貸借契約を締結する際に取り決める賃料を、継続賃料とは、賃貸借契約期間の更新がなされ、賃貸借契約が引き続き継続する場合の賃料を言います。
新規賃料 |
新たに不動産の賃貸借契約を締結する際に取り決める賃料 |
継続賃料 |
貸借契約期間の更新がなされ、賃貸借契約が引き続き継続する場合の賃料 |
不動産の賃料の算定方法には、(ⅰ)スライド法(経済変動の指数に合わせる)、(ⅱ)利回り法(物件価格に対する期待利回りをもとに算定する)、(ⅲ)差額配分法(契約の内容・経緯等を勘案して適正賃料と現行賃料との差額を双方に配分する)、(ⅳ)賃貸事例比較法(類似物件の賃貸事例と比較する)などがあります。
新規賃料と継続賃料では、下記の通り、鑑定評価方法が異なります。
新規賃料 |
積算法、賃貸事例非核法、収益分析法 |
継続賃料 |
差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法 |
賃料増額が争われる裁判においては,賃貸借契約期間の更新がなされていることが通常ですので,適正賃料の額は継続賃料によることになります。
一定期間賃料を増額しない旨の特約がある場合には、賃料増額請求は認められません。 ただし、大規模な天災などを原因として経済的事情が激変した等、事情変動の内容によっては、不増額特約が付されていても、賃料の増額が認められうると解されています。
他方、賃料減額請求については、賃料を減額しない特約があったとしても、これを妨げることはできません。賃料増減額請求権を定める借地借家法11条1項、32条1項は強行規定とされ、当事者の約定によりその適用を排除できないとされています(最判平成16年6月29日等)
賃料増減額請求は、相手方に対する意思表示によって行使します。この請求権は、その意思表示が相手方に意思表示が到達した時から、将来に向かって、相当額の増額又は減額の効果が生じます(これを形成権といいます)。
そのため、請求権行使の事実及び日付を証拠として残しておくことが重要であり、配達証明付内容証明郵便が多く利用されております。
賃貸人が、賃料増額請求を行った場合、賃料の値上げに同意しない賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、増額請求前の額の賃料を支払えばよいとされています。
そのため、賃料増額請求を行った後に、賃借人が従前の賃料を支払い続けている場合(あるいは従前の賃料を供託している場合)、賃料増額の裁判が確定するまでは、これをもって賃借人の債務不履行とはなりません。
ただし、裁判により増額が正当と確定した場合に不足額があるときには、賃借人は、その不足額に10 %の利息を付して賃貸人に支払う必要があります。
賃借人が、賃料減額請求を行った場合、これに同意しない賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまで、減額請求前の額の賃料の支払いを請求することができます。
そのため、たとえ減額請求を行ったとしても、賃料減額の裁判が確定するまでは、賃借人は従前の賃料を支払わなければ債務不履行となります。
この場合であっても、裁判の結果、減額が正当と確定した場合には、賃貸人はもらい過ぎていた額に、10%の利息を付して賃借人に支払う必要があります。
賃料増減額請求は、訴訟に先立ち、まずは簡易裁判所に調停申し立てを行う必要があります。これを調停前置主義といいます。
調停に当事者が出頭しない場合や、調停で合意がまとまらない場合には、調停不成立として、請求を行った側がさらに訴訟を提起することになります。
事務所名
アライアンス法律事務所
代表弁護士
小 川 敦 也
所属弁護士会
東京弁護士会
所在地
〒130-0012
東京都墨田区太平4-9-3
第2大正ビル
電話番号
03-5819-0055
アクセス
錦糸町駅から徒歩5分
押上駅から10分
(オリナス錦糸町の近くです)