日照権は現在では,判例上確立した権利です。 しかし,建物ができてしまってからでは手遅れです。日照権侵害対策は,アライアンス法律事務所にお早目にご相談ください。
日照権
日照権は、現在、判例においても保護されるべき法的権利として確立しています。隣接する建物が、違法に日照権を侵害し、その侵害の程度が受忍限度を超える場合には、損害賠償請求、または建築工事の差止請求が認められる可能性があります。建築基準法等の規制をクリア―している場合であっても、これらは行政面での規制であるので、必ずしも民事上も適法となるわけではありません。
受忍限度を超えたものかどうかがポイント
(1)受忍限度論
どのような場合に、受忍限度を超えるか否かは、①建物の建築目的、用途、②規模、③建物の社会的な評価、④その場所の地域性、⑤日照被害の程度、⑥侵害・被害回避の可能性、⑦加害建物の公法規制違反の有無、⑧先住関係、⑨交渉経過等総合的に比較検討の上判断されます。
(2)建物の建築目的、用途
加害者が営利目的の商業ビルた分譲マンションの場合、病院、学校、老人ホーム等必要性の高い公共用建物の場合に比べ、受忍限度を超えると判断されやすいと言えます。また、被害建物が住居の場合には、事務所や店舗等の場合に比べ、受忍限度を超えると判断されやすいと言えます。
(3)地域性
一般的にいって、経済の利便性を優先する商業地域と工業地域では日照を保護する必要性が比較的小さいと考えられています。ただし、裁判では、実際の用途地域の区分だけではなく、その地域の実情(たとえば、商業地域と指定されているけれども中高層建物は少なく低層住宅が多い等)、現実の利用状況や将来にわたる使用状況を考慮して地域の性格が決められます。
(4)日照被害の程度
一般には冬至の日の午前8時から午後4時までの日照時間を基準として考えています。裁判上は、具体的な建物の開口部を基準として、実際にどの位の被害を受けるのかを判断します。総合的な判断ですから、具体的に何時間ならよい・だめというものではないのですが、「日影時間は4時間を超えない」として正当性を主張されることが多いようです。しかし、確実を期すためには、日影規制対象であれば何時間なのかを基準に考えるべきです。
(5)侵害・被害回避の可能性
加害建物に敷地の余裕があり、日照被害を最小限に抑えるために容易に建物の配置や設計を変更しうるかどうか、また変更が容易であるかどうかが判断材料となります。
(6)加害建物の公法規制違反の有無
公法上の規制である日影規制、北側斜線制限をはじめとする建築基準法に違反している建物については、差止請求や損害賠償請求が認められることが多いといえます。公法上の規制に違反していない建築物についても他の判断要素を考慮して損害賠償が認められることはありますが、工事差止まではなかなか認められないといえます。
(7)先住関係
被害者が長年居住し、長期に日照を享受してきた場合は日照被害が認められやすいといえます。逆に、高層マンション建築契約があるのを知って、隣地に引っ越してきた場合は日照被害が認められにくいといえます。
(8)交渉経過
日照阻害を受けると予想される被害建物の居住者が、加建物の建築前ないし建築中に、加害建物の建築主に対し、加害建物の設計変更や低層化等の要望をしたにもかかわらず、建築主が誠実な対応をしなかった場合には、建築主の悪性と捉えられ、受任限度を超えるとの判断に結びつくことがあります。建築制限の合意を無視した場合、交渉に全く応じないで工事を強行した場合には請求が認められやすいといえます。
紛争解決方法
紛争解決の手段としては、①直接交渉、②社会への働きかけ、③行政・議員への要請、④説得行為、⑤地方自治体等による建築紛争調整、⑥建築確認に対する審査請求、⑦建築工事禁止の仮処分、⑧民事調停、⑨本案訴訟等があります。
(1)直接交渉
中高層建物を建築する場合、施主あるいは建築業者から近隣住民に対し、予定建物の工期、規模、日影の状況等が説明されます。その際、冬至における日影図が示されるのが通常です。説明会が開かれる予定が無い場合にも、建築主や建設業者に説明会を開くよう要求して、内容を把握する必要があります。なお、建築計画は、建築予定地の市区町村に、建築確認申請がなされているので、市区町村において申請された建築内容等を確認することも重要です。
反対運動には、近隣住民の協力が不可欠ですが、実際の交渉にあたっては、交渉の窓口を一元化して、統一的な要求を提示するためにも、リーダー的な人物を選定することが望ましいといえます。
建築法規違反が著しい建物が建築されようという場合には、直ちにその中止を求める必要があります。その場合には、内容証明郵便で工事中止の申し入れをします。中高層ビルの新築工事では、話し合いの結果、工事協定が結ばれることがあります。
(2)社会への働きかけ
直接交渉と並行して、町内会、地方議員等、広く社会に自分たちの要求の正当性を訴えかけることも有効です。ただし、その際に、名誉毀損や脅迫になるような文言は使わないこと、暴力を用いないこと、許可なく他人に敷地内に立ち入らないこと、実力行使をしないことは言うまでもありません。これらの行為は、かえって、社会からの信用を失くし、支持基盤を失う結果となりかねません。
(3)建築審査会
建築審査会とは、建築基準法に基づいて都道府県や市町村に設置された、建築主事などの処分等に関する不服審査請求の審査を行う行政機関です。建築に計画に建築基準法等の規制に違反している部分があるのであれば、その違法性を主張して建築審査会に審査請求をすることができます。
(4)建築工事禁止の仮処分
建築工事が進行しており、早く法的措置をとらなければ建築工事が終了してしまい取り返しが付かないという場合、本案訴訟に先立ち、仮処分の申立てをします。仮処分とは、債権者(この場合は近隣住民)に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、財産を差し押さえたり一定の法的な状態を作り出したりして、判決による解決または強制執行が可能となるまで、権利の実現に支障が生じないようにする暫定的措置を行う民事保全制度の一種をいいます。
仮処分の権利の証明程度は、「証明」までは必要なく、「疎明」で足りることになっています。本案訴訟における「証明」となると、認定すべき事実について裁判官が確信を抱く状態まで立証する必要がありますが、「疎明」は、裁判官に一応確からしいとの心証を得させれば足ります。
実際には、この手続中に裁判所を介して和解の話し合いがなされるのが通常です。
(5)民事調停
民事調停は,訴訟と異なり,裁判官のほかに一般市民から選ばれた調停委員二人以上が加わって組織した調停委員会が当事者の言い分を聴き,必要があれば事実も調べ,法律的な評価をもとに条理に基づいて歩み寄りを促し,当事者の合意によって実情に即した解決を図ります。調停は,訴訟ほどには手続が厳格ではないため,だれでも簡単に利用できる上,当事者は法律的な制約にとらわれず自由に言い分を述べることができるという利点があります。
(6)本案訴訟
本案訴訟は、仮処分とは異なり、紛争の最終的な解決を図るものです。具体的には、建築工事差止請求、損害賠償請求、建築物の撤去請求等が考えられます。
なお、撤去請求は、認められることがないわけではありませんが、極めて悪質な場合に限られます。
日照権侵害に対する損害賠償請求
裁判所で損害賠償が認められるのは、主として日照阻害による精神的苦痛に対する慰謝料です。土地建物価格の低下や光熱費増段に伴う損失については、実際にいくら下落したのかを証明することが困難であることから、認められることは少ないようです。