1 まず最初にすべきこと
工場施設による公害防止の観点から、様々な公的規制が定められています。この規制は、大きく分けて、当該地域において工場の建設自体を制限するもの(ex都市計画法、騒音規制法)と、工場施設の稼働によって発生する騒音や振動等を規制するもの(ex環境基本法、建築基準法)があります。そこで、工場の騒音問題が発生した際には、当該工場が公的規制に適合しているかを調査する必要があります。各自治体は、これらの法律を受けて条例を定めていますので、各市町村の担当部課にて確認するとよいでしょう。
公害担当課は、騒音の程度を測定し、必要があれば工場に立ち入って調査をすることもできます。その結果、規制基準に違反していることが判明すれば、操業の停止や改善命令が出されます。
2 交渉(話し合い,調停,あっせん等)
厳密には規制に違反していない場合であっても、工場の所在地、周りの環境、生活態様等によっては、騒音による日常生活に支障をきたす人もいることでしょう。その場合には、被害を裏付ける調査をした上で、話し合いの機会を設け、被害の実情を訴えかけるようにします。その際には、同じ被害を受けている人との連携を図ることが重要になります。相手方の誠実な対応が得られない場合には、裁判所の調停や弁護士会のあっせん・仲裁等の利用も考えられます。
話し合いができた場合には、合意に至った内容を協定書という形にしておくとよいでしょう。
3 差止請求・慰謝料請求の可否
現在では、生活妨害・公害事件の違法性判断基準として、「受任限度論」が裁判実務において定着しています。
最判平成6年3月24日は、生コン製造工場の操業に起因する騒音等により被害を受けているとして隣接地住民がした操業の差止め及び慰謝料の請求した事案で「工場等の操業に伴う騒音、粉じんによる被害が、第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工場等の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。」と述べています。
実務上、工場の操業から発生する騒音等が受任限度を超えるものであるかの立証責任は、原告である被害者側にあるとされています。